コーヒーを飲みながらいろいろなことに思いを巡らせるのは至福の時間だと思っています。ここでは、そういった時間に考えたりしたことを自由に書ければと思いました。
観測問題
私が、世の中まだまだ分からないことがたくさんあるなあ、と思う科学の話題の筆頭が、量子力学という物理学分野のいわゆる「観測問題」と呼ばれるものなのですが、皆さんは耳にしたことはあるでしょうか?なじみのない人には、いったい何を言っているんだと思われるような説明になってしまう気がしますが、ここではこの話を紹介して、私が思うことを書いてみたいと思います。
目の前のテーブルに置いてあるコップが、あなたが見ていない時には実体として存在していないと言われたら、どう思うでしょうか?ミクロな世界では実際にそのようなことが起きているとされていて、例えば、電子のような小さい粒子は、確率の波として広がっており、私たちが観測した瞬間に一点に存在する粒子となるそうです。訳が分からないですよね。でも、たくさんの人たちが一生懸命調べて、考え続けてこの結論になっています。この量子力学という理論が作られてもう100年程になりますが、基本的にあまり考え方に変化は無いようです。

ウィグナーの友人の思考実験
これがいかに奇妙かということを説明するための状況が、シュレーディンガーの猫と呼ばれる思考実験です。観測できないように箱の中に猫と、1粒の放射性元素、その放射性元素の崩壊を検出して毒ガスを出す装置を入れます。

放射性元素はミクロの粒子なので、量子力学によると観測していないときは崩壊した状態と崩壊してない状態が重なった確率の波になっていると考えられます。そうだとすると、猫も、放射性元素が崩壊して毒ガスが出ることで死んでしまった状態と、放射性元素が崩壊せずに生きている状態の重ね合わさった状態になっているという考えです。箱を開けて観察した瞬間に、確率の波の状態が収縮して確定し、生死がどちらかに定まると考えるんですが、現実がこうなっているというのは信じられるでしょうか?
これに対して、観測とは何かという視点を追加して、より一層奇妙にしたのがウィグナーの友人という思考実験です。ウィグナーという物理学者がいるのですが、ウィグナーが友人に、上の猫の箱を持って、隔離されて観察できない部屋に入ってもらうというものです。その部屋の中で友人が箱を開けると、立場の違いにより次のいずれかが起きるという考えです。

- 猫の生死が、ウィグナーの友人とウィグナーにとっての共通の現実として確定する。
- ウィグナーから見ると「生きている猫をみたウィグナーの友人」と、「死んでいる猫をみたウィグナーの友人」が重なった状態となり、ウィグナーにとっては現実は確定していない。
ここからの説明には、私が本などを読んだ限りでの理解と私の考えをまとめます。上のウィグナーの友人の解釈の1番目は正統派の量子力学の解釈にそった考え方で、現実はあくまで一つであり、誰でもよいが、だれか人間の観測が状態を確定させるということになります。ただし、これは必然的に、人間の意識に現実を確定させる特別な力があるとする立場になり、また、人間の意識が観測したとみなされるのは網膜に投影された時点か、脳の中で情報処理される過程のどこかかといった、観測の時点の問題も出てきます。強い反発もある考え方です。
対して、上の2番目の考え方は、共通の1つに定まった現実が無いということになり、世界が分裂し続けていると考える多世界解釈と呼ばれる立場の考え方のように思われます。これも同様に非常に奇妙であり、受け入れがたく感じます。このように、奇妙な解釈しかなく、未だに論争が続いている状況です。
様々な立場の説明
実は状態の収縮(確定)が無いとする立場もあります。下はそれらの他に提唱されている考え方も含め整理した図になります。

どの考え方にも受け入れがたい部分があり、それゆえに決着していないと言えます。まず大まかに、観測によって状態は収縮して確定すると考える立場と、収縮しないとする立場があります。この立場のうち、人間の意識が観測することにより、収縮が起こると考える立場がノイマン、ウィグナーのものです。しかしこの考えは、上で書いた通り、人間の意識が物理現象に影響を与えるという点で受け入れがたいです。また、宇宙の歴史上、人間が存在する前はどうなっていたのか説明できないという問題もあります。
また、物理現象として物質の状態が自発的に収縮するメカニズムの存在を仮定する考え方があります。これらの考えでは、たくさんの粒子が集まった十分に大きな(マクロな)物体では収縮が起こることで状態が確定して観察されるとします。そして、その収縮に重力が影響すると考える人がいます。この立場の人としては数学者のペンローズが有名です。日経サイエンス2025年4月のインタビュー記事で、名古屋大学の谷村省吾教授も重力による収縮を支持しています。また、物質自体に非常に低い確率で自発的に収縮する性質があると考える、連続的自発的局在化という理論もあります。
これらのマクロな物質の収縮に関する立場が持つ問題点は、実際の干渉現象などの量子力学実験において、マクロな物体が関与する状況でも状態の収縮が起こらない例があることだと思われます。また、現状は特にそういった収縮のメカニズムを示唆する証拠は存在しないと思われます。
状態の収縮が無いとする立場は、上で少し述べた世界が分岐し続けるとする多世界解釈と、量子デコヒーレンスがあるようです。多世界解釈は検証不可能でもはや科学ではないという批判もあります。量子デコヒーレンスは複数の粒子の確率の波が相関しあっている量子もつれの状態にあるとするそうですが、私は説明を読んでも理解できませんでした。量子力学に矛盾はないと言う意見をされている人はこの量子デコヒーレンスを主張している人がいるようです。しかし「デコヒーレンスから波動関数収縮のメカニズムは一切出てこないから問題解決にならない。以上」といった厳しい意見もあります(日経サイエンス2019年8月号p78)。
これらの立場以外に、そもそも粒子が波として広がっているという考えは必要なく、隠れた変数というものを仮定すると、粒子が確定した状態で存在しているという古典的な考え方を維持できるという立ち場があります。この立場を最初に提唱したのはド・ブロイという著名な物理学者で、粒子がパイロット波という先行する波を出しているとします。ただ、この立場の問題点は、どんなに遠く離れた粒子の間にも一瞬で伝わる相互作用が働いていることになる点で、結局は現在の物理学と矛盾するようです。
また、個人的な考えとしては、自発的収縮の理論や、多世界解釈、隠れた変数の理論は、電子が原子核の周囲に確率の雲として存在することで原子核に墜落しないことを説明できるようになった、原子構造の理論を振り出しに戻してしまうと思っています。なので、一応整合性が取れているのは人間の意識が収縮を起こすという最初の立場ということになるでしょうか?信じがたいですが、非常に著名な科学者のフォン・ノイマンもその立場なので、一笑に付すこともできない状況です。現在の標準的な物理学の教科書では、観測で状態が収縮するとしつつ、この辺りはぼかして結論を出していない書き方になっています。
このように、観測問題は非常に奇妙な問題として物理学者の間で議論が続いていて、立場の違う考えが入り乱れており、未だに解決していません。そしておそらく解決しないのではないかと思います。ただ、もしかすると今後の精密実験の進展で何か新しい情報が出てくるかもしれないので、楽しみに待ちたいですね。アインシュタインは観測問題について、「月は君が見上げている時だけそこに存在すると信じるのか」と、その信じがたい結論に疑問を投げかけていて、この疑問はまだ解決していないと言えます(日経サイエンス2019年8月号p81)。
今回お世話になったカフェ
この記事を考えながら、三宮サンプラザの地下街のデルパパでピザをいただきました。200円でドリンクバーがつきますし、平日の夜に行くとかなりすいているので、ゆっくり参考の本が読めました。ピザとサラダバーも美味しく、満足です。

また、三宮の阪急駅北側にあるバーガーキングも、2階席はゆっくり読書したり考え事に向いています。別の日にお世話になりました。


参考図書
最後に参考にした本を紹介します。アマゾンでの購入リンクを張ってあります(Amazonのアソシエイトとして、適格販売により収入を得ています。)
日経サイエンスの2025年4月号では観測問題の特集が組まれています。正直、ちゃんと理解するのは困難な内容ですが、AIを使ってウィグナーの友人の実験を行う話は面白いと思いました。良く分からなくてもイラスト等もきれいな雑誌なので、それなりに楽しめるかもしれません。谷村省吾教授のインタビュー記事も、現役の研究者の視点を聞くことができて非常に良いと思います。(下のリンクのFREE PREVIEWはKindleのリンクのようですが、クリックしても表示されません。BUY ON AMAZONをクリックするとAMAZONの販売ページに飛べます。)
2019年8月の日経サイエンスには、波動関数の収縮を連続的自発的局在化の立場から実験で確認しようとする試みが書かれていて、比較的分かりやすく、お勧めです。すみませんが、中古でしか入手できないようです。記事は日経サイエンスのサイトから有料でダウンロードできるようです。
岩波新書の量子力学入門は観測問題に関してかなり詳しく書かれた一般書です。数式は使用していませんが、内容はかなり難解で、ちゃんと量子力学を勉強した人でないとさっぱりだと思われます。量子力学を勉強している人には非常に有益だと思います。一般の人が読むなら雰囲気で読むつもりが良いかと思います。著者はおそらく量子デコヒーレンスのスタンスの人だと思われ、結局いつ状態が確定するのかについて触れていない点は、私には納得できない部分がありました。
アインシュタインを含む研究者の量子力学に関する論争の歴史に関しては、新潮文庫の量子革命が詳細に書かれた面白い読み物だと思います。


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